(ADからQが出まして)
居酒屋の経営においての鉄則にこういうものがある。
お会計作業は迅速に。
居酒屋というものは、深夜帯営業店を除き、ほぼ店閉めが終電間近だ。よってラストオーダーが終わって、品物が出た後、ホールスタッフがお会計に各テーブルを回る。特に席数が多いお店はかなりの重作業。レジに伝票が集まる。ここでやはり閉店時間との戦いがあり、迅速なレジ会計作業が必要となる。それができなければ、バイト勢はともかく、社員勢は帰れなくなるからだ。
しかし私がここで言いたいのはそういった話じゃない。
何年か前のある日、私は人形町にあるとある居酒屋で働いていた。まあまあデカイお店であった。いつものようにお店は営業して、客層は人形町だけにおじさんが多い。しかしその日はいつもと少し違い、カウンターにカップルというか、男女、年齢層はまちまちな感じで、アベックが多かった。
21時〜22時くらいか、その中のカウンターアベックの女性がトイレに立った。その時だ。トイレに立った女性の連れの男性が私を呼んだ。そして「会計を」という。私「かしこまりました」と、いつものようにゆっくりとお会計作業をしていたら、当時の店の店長・S氏(後にc.a.g.の兄貴分になる男)が私にこういった。
「こういう場合はもっと早く(レジ作業を)やらないとダメだ。(女性が)トイレに行ってる間におつりを渡し終わるまで終了して、(女性が)帰ってきたらすぐに店を出れる状態にしてやるんだ。(女性に)お金(レシート)を見せちゃいけないんだ。いいか。そうしないと、えらいことになるんだぞ。(男性の)プライドや今後の主導権に関わるんだ。もしあの男より(女性の方が)上手だったら、この3回目のトイレはトイレじゃない、(化粧直しを兼ねた)サインなんだぞ。」
当時、男女の色話において、右左はおろか、東南西北、いや白發中ごときも知らなかった私だが、それはすべて理解できた。それまでゆっくり作業していた時間と注意された時間のロスにより、ドスンと来た衝撃とその女性のトイレの回数を数えていた店長への賛美の気持ちに浸ることもできず、すぐにおつりを渡しに行く。あいにく女性トイレは並んでいたみたいでことなきを得た。
あの衝撃から4年。
今、その男女がどうなっているか私は知らない。
しかし、私はこうして大地に立っている。
あの日、あの時の出来事が今の私のファクター(要素)になっている。
それでは聴いてください。
美空ひばりさんで『川の流れのように』どうぞ。
〜♪♪